2018年11月25日

195.「抑止力」についての疑問[伊藤真『9条の挑戦―非軍事中立戦略のリアリズム』より]



いわゆる「抑止力」に不信感を抱いているひとり。得たり、と思う記述に出逢った。以下、伊藤真『9条の挑戦―非軍事中立戦略のリアリズム』(2018)pp.27-29より。
 
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軍隊を持つ方が攻められる危険は小さくなる、という意見があります。「攻めてきてみろよ、もっとひどい目にあわせてやるからな」といって相手国に対する攻撃抑止力になるという考え方です。

こうした「抑止力」に依存した安全保障政策は、実はかえって国民を危険にさらすものです。軍事的抑止力に依存する安全保障論には次のような疑問があります。
 
疑問1 
そもそも抑止力が効果的な安全保障手段かどうかが不明である。抑止力という概念自体が極めて主観的なものであり、抑止力の効果を客観的に測定することは不可能ではないのかという疑問がある。

抑止力が機能している状態というのはどういう場合か。それは「相手国がこちらを攻撃した場合、攻撃による利益よりももっと大きい打撃をこちらから受けると相手国が理解しているとこちらが認識でき、それにより、相手国はこちらを攻撃しないであろうとこちらが考えることができる場合」と言える。こうしたときに抑止が効いていると判断できるのだが、傍線部分はすべて主観的要素である。抑止力とは何重にも主観的要素を重ねた判断であるから、平和の維持と抑止力との因果関係を客観的に論証できるものではない。
 
疑問2 
抑止力の前提に対する疑問がある。
 
抑止力とは、お互いの腹の探り合いのようなものであるから、お互いが相手の軍事的能力や意図(軍事戦略)に関する情報を適切に有していることが前提となる。しかもそうした情報に基づいて理性的に判断できることを前提にしている。北朝鮮に関して言えば、これまで金正恩委員長が何を考えているかわからない危険な人物だとか、中国の軍事力は統計が不正確で不透明だと言いながら、抑止力を強調する人がいる。しかし、それは自己矛盾である。それは抑止が働かないことを自白しているに等しい。
 
疑問3 
同様に、テロに対する抑止力も無意味である。
 
現在、世界で最も脅威とされている国際テロを行う集団は自爆テロをも行い、軍事的な脅し、つまり抑止が効かない相手である。抑止力を高めればその国は平和になり、国民は安全になるのであろうか。もしそうであれば、世界最高の軍事力を持ち、世界最大の抑止力を持つ米国が世界で最も平和でかつ、米国市民が世界のどこへ行っても最も安全であるはずだが、現実は逆である。世界平和度指数のランキングで米国は163か国中、121位である(2018年)。ちなみに最下位はシリアであり、日本は9位である。
 
疑問4 
相手国を刺激し、軍拡競争を誘発することを考慮していない。
 
抑止力論は相手の脅威を強調して自国の軍事力強化を主張するが、そのことが相手国にとって脅威となり、ときに挑発になることを考慮しない。相手は日本に負けまいと軍拡に走り、日本もさらに負けまいとそれを上回る軍拡を目指すことになる。こうして際限なき軍拡の負のスパイラルに陥る危険性がある。その結果、一触即発の危機が生まれ、国の安全はかえって損なわれる。いわゆる「安全保障のジレンマ」に陥る。
 
「安全保障のジレンマ」とは、自国の安全のためにとった措置がかえって相手国に対する緊張を与え、相手国がとる対抗措置により、自国の安全が阻害されることをいう。相手に脅威を与える政策はかえって自国の安全を棄損するのである。
 
疑問5 
そして何よりも抑止力論は、抑止が破れた時の甚大な被害について考慮していない。
 
抑止が破れれば戦争になり、甚大な被害が生じる。その点に触れることなく、抑止力を高めれば確実に戦争を阻止できるように吹聴することは不誠実である。非軍事中立戦略に対して、侵略されたときの被害を甘受するのかと批判する人たちは、抑止力が破られた時の被害は無視するのかと問い返されるころになる。
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無意味な「抑止力」のために莫大な税金を投入しているのだろうか?
 
posted by Lily at 13:01 | 政治と憲法