2017年03月26日

108.憲法制定の目的(2)

 今度は自民党改憲草案の「前文」を見てみましょう。下線部分が憲法制定の目的です。

 日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって、国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分立に基づいて統治される。
 我が国は、先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展し、今や国際社会において重要な地位を占めており、平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に貢献する。
 日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。
 我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる。
 日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、ここに、この憲法を制定する。

 はい。こちらに政府の戦争責任を明らかにする文言は見当たりません。そして憲法制定の目的もかなり違っているようです。「政府の行為によって再び戦争が起らないように」ではないんですね。自民党改憲草案の場合、憲法制定の目的は「国家を末永く子孫に継承するため」なんですね。なるほどなるほど。
 この「前文」は5つの段落からなっていますから、順番に詳しく見ていきましょう。

 まず1つめの「日本国は」で始まる段落と2つめの「我が国は」で始まる段落は、日本がどんな国であるかを説明しています。特に2番めの段落は、日本がどんなにすごい国であるか、ということが書かれているんですね。なんだかお国自慢みたいですね。
 そうして3番めの段落になってようやく「日本国民」が出て来ました。ここでちょっとびっくりしません? だって、私たち日本国民は「自ら」「国と郷土を守る」んですよ。それも「誇りと気概を持って」守るのです。そして、この段落の主語と術語を結ぶと「日本国民は、国家を形成する」となることにも注意を払いたいところでして、要するに、日本国民の存在理由は国家を形成することにあり。と、明言されていることになりませんか?
 さて4つめの段落は「我々は」で始まっています。はじめて一人称が出てくるんですね。英語でいうと"We"ですが、ではここで質問。「我々」って誰なんでしょう? よ〜く考えてみてください。なぜってよ〜く考えなくちゃならない、意味深な「我々」ですから。そしてこの「我々」は「国を成長させる」とのことで、要するにこれは事実上の命令文とみていいでしょう。
 そして最後の段落に憲法制定の目的が書かれています。憲法制定の目的は「日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため」で、この目的のために「ここに、この憲法を制定する」のですね。なるほど、自民党改憲草案の場合、憲法制定の目的は「日本国民が国家を継承していくこと」なんですね。

 はい。というわけで、お国自慢 〜 国民の役割 〜 意味深な「我々」〜〜 とつづられてきた自民党改憲草案の前文は、「日本国民は国家継承のために存在する」ことを暗に確認した上で結ばれているようです。いかがでしょう? あなたはこの自民党改憲草案の前文に流れる姿勢をどう受け止めますか?


posted by Lily at 00:00 | 政治と憲法
2017年03月19日

107.憲法制定の目的(1)

 現行憲法と自民党改憲草案の前文を読み比べたことのある人はお気づきだと思いますが、現行憲法と自民党改憲草案とでは、憲法制定の目的が違うんですね。ここで改めて、そのことを確認しておきたいと思います。

 以下は、現行憲法の前文。下線部が憲法制定の目的が書かれている箇所です。

 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
 われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。

 はい。現行憲法では、「憲法は誰のためにあるか?」といえば「われらとわれらの子孫のため」です。「憲法は何のためにあるのか?」といえば「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうに」するためです。この部分、つまり「戦争が政府の行為によって起こされた」ことを認めるこの部分は、極めて重要だと考えられます。なぜなら、今の憲法には「戦争なんてもう二度といやだ!」という国民の強い気持ちが込められていて、だからこそ、政府の戦争責任を明らかにするこの文言は、極めて重要なのです。削るなんてとんでもない! のですが、ところがところが . . . .。



posted by Lily at 00:00 | 政治と憲法
2017年03月12日

106.戦争は政府の行為によって

「政府の行為によつて再び戦争の惨禍(さんか)が起ることのないやうにすることを決意し」。憲法前文にあるフレーズです。そしてこれこそ憲法制定の目的です。

この「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」が憲法の「前文」に入っていることの意味はとても大きいと思っています。なぜならこれは、「戦争は政府の行為によって起こった」ということをはっきり認めているフレーズだからです。「あの戦争は政府の行為がもたらした」ということを、前文で「確認」していると考えられのです。(「惨禍」という言葉はなじみのない言葉かも知れませんね。意味は「むごたらしくいたましい災難」です)。

ところがです。自民党の改憲草案前文を見ると、この、政府の戦争責任を認めるフレーズが消えてなくなっているのです。なぜなのでしょう? 疑問に思うところです。

それでは自民党の改憲草案前文は、先の戦争に全く触れていないのか? というと、そうでもなく、戦争に言及している箇所はあるにはあります。その部分を取り出してみましょう。

我が国は、先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展し、今や国際社会において重要な地位を占めており、平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に貢献する。

上記の下線部の「先の大戦」がそうです。でもその後の「荒廃」を補足説明しているだけですね。政府の戦争責任には全く触れていません。この「先の大戦による荒廃」は、これに続く「幾多の大災害」とともに、「わが日本がどんなにすごい国であるか」を効果的に言うために、つまり日本の「すばらしさ」を強調するために持ち出された、という感じがするのです。

自民党の改憲草案前文から政府の戦争責任を認める文言が消えているこの事実。あなたはどう受け止めますか?

※参考データ:青井未帆『憲法守るのは誰か』( 2013)幻冬舎ルネッサンス新書
posted by Lily at 00:00 | 政治と憲法
2017年03月05日

105.太平洋戦争へ(14)

「ポツダム宣言」で思い出されるのは
安倍晋三首相が「つまびらかに読んでいない」
といったこと。あれはたしか、
2015年5月20日の党首討論でのことでしたっけ。
それでは今日で完結するこのシリーズを
ポツダム宣言のところから。

ポツダム宣言が発せられた
1945年7月26日の日本政府の対応が
どのようなものだったかというと、
まず、当時の外務省は「意思表示せず」と主張。
軍部は「絶対拒否」を主張。
当時の鈴木貫太郎首相は「黙殺」。
ここで鈴木内閣は「国民義勇隊」を結成し、
男子15歳から50歳、女子は17歳から40歳を
義勇隊に登録。
敵がもし本土に上陸したら
「一億総特攻」により撃滅し、
「挺身斬込」により殺傷するように
国民を指導しました。
連合国側は当然この日本の「黙殺」を
ポツダム宣言拒否と受け止めます。
そしてそれを理由に通告通り
「日本国の完全なる破壊」を行うため、
8月6日に広島に、8月9日に長崎に
原子爆弾を投下しました。
そして8月8日には3ソ連が日本に宣戦布告。、
8月9日には圧倒的兵力を持って
南サハリン、満州、朝鮮に進軍してきました。
日本の戦闘継続能力は完全に崩壊し、
鈴木首相は天皇の「聖断」という形で
ポツダム宣言を受諾し8月15日に「玉音放送」。
9月2日にミズーリ号上で降伏文書の調印がなされ
太平洋戦争はようやく終わったのでした。

※引用参考データ:2015年5月21日J-CASTニュース、『爆笑問題の戦争論』(2006)幻冬舎
posted by Lily at 00:00 | 政治と憲法